プロローグ

プロローグ. 『日常の急変』



 その昔、とある惑星に侵略者たちが舞い降りていった。
 
 長い時に渡って繰り広げられたこの戦いは両勢力を疲憊させていった。

 勝利した惑星は人口の9割を失い、文明は衰退し、

 人々が積み上げた歴史のほとんどが闇の中に葬られていった。

 敗北した侵略者たちは癒えない傷を残し、余力をわずかに残しながらも、新天地へと旅立っていった。




 それから、千五百年の時が流れていった。

 勝利した星・惑星フュートは戦前文明の遺跡から「ロスト」と名付けられた物品や機械を発掘し、

 技術を解析。

 現代の技術で再現させ、量産し、

 経過していく時の中で文明を徐々に復興させていった。

 中には技術を解析する事が出来ないロストもあったが、それらは大替品を用意するか、

 次の世代へと持ち越された後で解析に成功していった。

 ロストの種類は多く、機械の部品から技術、燃料、材質、小道具といった物があった。

 乗込型歩行式重機械「ハード」もロストのひとつである重機を解析し量産させたものであり、

 やがて惑星に広く普及していった。

 ある者は商売に欠かせない作業の道具として。

 ある者は自身の力を鼓舞する道具として。

 ある者は人々を守る相棒として。

 人の数だけその役割があった。





 発掘屋。

 各政府機関などから依頼を受け、地中や海中に没した遺跡などから「ロスト」を探し当て、

 依頼主へと提供し、金銭を得るという職業である。

 人々の生活手段の一つとしても浸透しており、また発見されていない未知のロストも多く、

 それらを探し当てるという夢を持つ者も多かった。


 惑星フュートの西側に位置するラムロ大陸ジーム共和国。

 大陸のほとんどが乾燥した荒野に覆われているが遺跡の数も多く、

 各所で発掘屋たちが作業に勤しんでいる。

 何日も何日も時間を割く必要があるためか、家に帰らず発掘現場に寝泊まりをし、

 日夜連続で作業に没頭する発掘屋も多かった。

 中には多くの発掘屋が集まった為に、村や町が出来たというケースもあった。

 大陸の北西側に位置する第六十四番発掘現場もこの中の一つである。

 朝早くから怒号や罵声、歓喜の声と土埃が渦巻くこの場所で、

 ニット帽とゴーグルが目印の女が誰かを探し回っていた。

 「…まったく、タクミったらどこ行ったんだよまた…」

 結局、検討がつかなかったのか壁際で作業用の小型ハード「ジェグ」で仕事中の父親に呼びかけた。

 「ちょっと父さん!タクミのヤツどこ行ったか知らない?」

 「なんだアイツ、またサボリか? だったらまたいつもの所に行ってるんじゃないのか」

 「…あぁ、またあの場所か。本当好きだよねタクミのヤツ」

 彼女の名前はレイ。

 従業員数人程度の弱小発掘屋「エイトピース」の社長の娘である。

  「父さん、ちょっとバイク借りるよ」

  そう言うとレイは休憩所に置いてあったバイクにまたがり、

  発掘現場から北東目掛けてエンジンをふかし、走りだして行った。


 発掘現場から北東の池。

 そこの果てには大きな崖があった。

 その崖から見える景色は発掘現場だけでなく、

 西側にある草木に囲まれたオアシスまでもがひと目で見渡せるようになっていた。

 そして、そこで寝そべっている少年が一人いた。

 少年はだんだんと大きくなっていくエンジン音にも耳を貸さずに寝そべり続けていた。

 「まーたあんたはこんなところでサボって!」

 と、レイが発掘屋の少年タクミに軽い蹴りを一発。

 「…人がよく寝ていた所を邪魔するんじゃない」

 「そう言えるタマかあんたは? 毎日のようにここに来てよく飽きないね。

  来るのは勝手だけど作業までサボるのは頂けないわ本当」

 「俺はこの景色が好きなんだ。俺の一日はまずこの景色を見てから始まるものなんだ」

 「そう言ってるけど、今はもう昼だッッッ!! というかただのサボりの口実でしょうが!!」

 ゲンコツ二発。

 「ホラ、さっさと戻るよ! 今日こそ一際デカイのが取れそうなんだから!」

 「そういってもう二週間も大した物は取れてねえじゃねえか…」

 左腕にアームロック。

 「ガアアアアア! …や、やめろ…関節技はやめろ…」

  これには応えたらしく、タクミは渋々ながらもレイの後をついていった。

 「…しっかし、何年も前から目にしてる光景とは言え…

  よく同じ場所で何日も何日も発掘作業してるもんだな」

 「いい加減慣れなよ、発掘ってのは大抵そういうものなんだから。

  私なんて赤ちゃんの時は母さんの背中におぶさりながら作業させられたものよ?」

 「いや、それはまず、やる方がありえないだろ」

 冷静なツッコミである。

 二人が他愛もない会話を交わしている頃、空には謎の赤い光が尾を引いていた。





 「……?」

 ふと、タクミが空を見上げた。

 「どうかしたの?」

 「…何か聞こえないか? こう、飛行機が飛び去っていくような感じのキーンとする音が」

 レイは耳に手を当て、空に向かって首を傾けた。

 「…確かに何か聞こえるような…っていうか、アレ何?流れ星?」

 レイは気付いた。空に赤い光がある事に。

 「…流れ星って昼間でも見えるものなのか……ってか、何かだんだん大きくなってきてないか?」

 ここに来て二人はその尾を引いた赤い光がこちらに向かってきていることに気がついた。

  「…まさか! 伏せろ、レイ!」

 「えっ、何!?」

 タクミは咄嗟にレイに指示し、共に今いる場所で伏せた。

 赤い光は形がはっきりと分かるほどの大きさとなり、北西へと向かっていった。

 やがて湖に堕ちたかのような大きな音がその地で鳴った。

 「……な、なんだったの今の?」

 「俺に聞くなよ、お前も訳がわからないんだから」

 そう言うとタクミは咄嗟に伏せた際に倒れたバイクの体制を整え、バイクの上にまたがった。

 「!? ちょ、ちょっと何やってんだよタクミ!」

 「悪い、ちょっと湖にまで行ってくるわ」

 そう言うとエンジンを一気に入れ、北西の湖へと走りだしていった。

 置いていかれたレイは地団駄を踏みながらこう漏らした。

 「あーもう! どうせなら一緒に連れてけっての!!」

 バイクを走らせたタクミが着いた先は崖から西側にあるオアシスだった。

 荒野には数少ない草木が生い茂っており、休憩所としても大きな価値があった。

 しかし、今この場所には湖に隕石らしきものが落ちたために周りは水浸しの状態となり、

 湖の水位もかなり下がっていた。衝撃で吹き飛ばされた魚も辺りに散乱していた。

 「…こりゃひでぇな」

 そう思いながらもタクミはバイクから降り、隕石を調べるためにと靴を脱ぎ湖の中に入っていった。

 水位が下がったといっても、膝下までは余裕で入る程の深さであり、動きづらい。

 しかも隕石のせいか水温が高くなっており、ぬるま湯に入っている状態といってもよく、

 美しかったオアシスをこんな状態にされたためにタクミの気分はあまり良くなかった。

  あの隕石を調べたら、少し削りとって同業者にでも高い値段で売り付けてやろう。

 そう思わなければやっていられない気分であった。

 しかし隕石に近づくに連れて、あれは隕石ではない事に気がついた。

 これは機械だ。筒状の機械だ。空から機械が降ってきた。

 それも思ったよりも小さい。10メートル…くらいか?

 昔、レイの奴から聞いたことがある。大昔には空の上…

 確か「宇宙」とやらで戦争があって、この世界の人間がボロ負けしたとかいう話だ。

 まさか、これはその時のそれじゃないだろうな?

 タクミがそう考えていたその時だった。

 突如、隕石、ではなく機械の正面から扉らしきものが開き、

 中からハードのような巨大な機械が現れた。

 その機械が1、2歩踏み出すと、さらに機械の胴体が開き、中から人間が現れた。

 小柄な体格でヘルメットとスーツを着ていた姿をしていた。

 人間は辺りを見回すと、こちらに気づいたのか数秒ほど立ち止まった。

 そして直後に倒れてしまい、湖の中へと入っていった。

 タクミは驚きつつも、その人間を抱え湖から出ていき、

 直後に恐る恐るながらも胸の辺りを触ってみた。

 (男…いや、女か?)

 ヘルメットのせいで顔が見づらい状態だったが、微妙に胸が膨らんでいるようだった。

 体格も小柄で、まず女と見て間違い無いだろう。

 しかし、訳が分からない。突然空から機械が降ってきて、その中にはハードと人間が乗り込んでいた。

 一体どういう状況だったんだ? まさか家出でもしてきたのだろうか。


 「おーい!」

 やがてバイクのエンジン音と自分を呼ぶような声が聞こえてきた。

 (ああ…アイツか)

 レイだ。彼女がタクミに近づくと、バイクから降りすぐさま突っかかってきた。

 「まーったくなんであんたはこう後先考えずに突っ走るもんなんだか!心配するこっちの身にもなって…

  って、誰、その子?」

 レイがタクミの側で眠っている謎の女を見て言った。

 「…ん、何というかな……宇宙人、拾ったみたいだわ」

 「…は?」

 レイは若干呆れたような反応を示した。



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